前回、科学者とそうでない人が考える研究の目的に隔たりがあることを書きました。どうしてそのような隔たりができてしまうのかを、2種類の科学という視点から考えます。
基礎と応用:2種類の科学
一般的に、科学研究は「基礎研究」と「応用研究」に分けて考えられます。
- 基礎研究は、何らかの理論の構築を目指すものであり、純粋に知の創造と拡大を目的にします。実用化の見込みなどを考慮に入れません。
- 応用研究は、主に基礎研究の過程で開発された技術を利用して、現実の社会問題の解決法を模索します。
『パスツールの象限』の著者であるStokesによれば、このようなわけ方、そして二つの関係がきちんと考察されたのは、第二次世界大戦中のことだったようです。その当時の大統領ルーズベルトのキャビネットにいた、Vannevar Bushは、科学研究政策への助言を与えていました。何十年も戦争をしてきた当時、科学研究は、政府主導で、戦争に役立つものが優先的に予算を割り当てられていたようです。しかし、戦争の時代を終えようとしていた大統領はBushに戦争が終わった後の科学研究の進め方についてたずねました。それに答える形で考えられたのが、Bushによる「基礎研究Basic Research」と「応用研究 Applied Research」の区別です。
国家が基礎研究へ投資する根拠
既に挙げたように、基礎研究自体は何ら応用を考えない、ある意味、純粋な科学です。では、国家が応用を考え
ない基礎研究に投資する価値があるでしょうか。Bushは、段階的に基礎から応用へと科学技術が移行するモデルを想定していました。
基礎研究で新発見がある➟新発見の途中で開発した技術を応用向けに考え直す➟社会問題の解決に科学技術を適用する
このような過程を経ることで、基礎研究は社会に貢献できるというのです。実は、今のところ、特に基礎・理論系の科学者の多くは、自らの研究がこのような過程を経ることへの淡い期待を持って研究を進めている気がします。ただし、特にどのような分野への応用を想定するか(もしくはしないか)は研究者によってばらつくように思います。
まとめ:2種類の科学がひとつであると考える誤解
研究に従事していない人からすると、具体的な応用もなしに、漠然と役立つかもしれないくらいで研究を進めるのは意外かもしれません。しかし、研究者からすると、知の創造・拡大には一定の方向性があるため、その方向性の中で研究の独自性・新奇性を考えます。というわけで、社会問題は意識の外における状況が生まれがちです。そして、Bushによると、これまで強く信じられてきた基礎と応用という2つの研究には、決定的な矛盾点があるというのです。次回は、その話をします。