jnobuyukiのブログ

研究していて困ったことやその解決に関するメモ。同じように困ったあなたのために。twitter ID: @j_nobuyuki

学術雑誌で論文を出すとはどういうことなのか?(1)

今回は、論文が学術雑誌に掲載される*1ことのプロセスや意味などを考えてみたいと思います。世の大半の人にはどうでも良いことなのかもしれないのですが、中には「研究者が何かといえば論文、論文と騒いでいるが、論文が出るのがそんなに大事・大変なことなの?」という疑問をお持ちの方がいらっしゃるかもしれないので、そういう方に向けて、僕が知っていることを書きたいと思います。第1回の今回は、論文の著者という立場で書いてみたいと思います。
あくまでも個人的な経験に基づく個人の見解です。異なる考え方を持っている研究者もいるかもしれませんし、それはそれで良いと思います。

筆者の経験

これまでに論文が学術雑誌に掲載された経験が何回かあります。筆者の専門は心理学で、日本国内の心理学系学術雑誌に何回かと英語圏の学術雑誌にも何回か掲載されています。自分が責任著者(後で説明します)でないものも含めると合計で10回以上はあります。また、審査員として投稿された論文を査読した経験はその2〜3倍くらいあると思います。あとは国内または国際学会に応募された論文または論文要旨の審査や海外の研究助成金の審査の経験があります。なので、人から聞いた話も中にはありますが、基本的には自分で経験したことを元に説明したいと思います。


論文投稿のよくあるプロセス

論文著者から見ると...

1. 論文を書く*2。各学術雑誌には、受け付ける研究の種類や書き方に至るまで細かい指定があるので、それに合わせて書く。
2. 論文を投稿する。以前は印刷した原稿を郵送でしたが、最近はほぼ電子投稿です。投稿用のWEBページで原稿や図表のファイルをアップロードして投稿用原稿を完成させます。これ以降、全てこのwebページにプロセスのログが残っていきます。

(この間約3~6ヶ月)

3. 審査コメントを受け取る。編集者と2〜3人の審査員の審査結果とコメントを受け取ります。この時点で、掲載可となることはほぼないので、審査員のコメントを読みながら論文の修正を試みます。よく指摘されるポイントは、「この研究の意義や先行研究との差分が分かりにくい」「分析結果が分かりにくい。もっと良い分析方法がある」「結果の解釈に論理の飛躍がある」などです。

(この間3〜6ヶ月)

4. 修正原稿とコメントへの返答レターを書く。修正については、基本的に審査者のコメントに合わせます。どうしても修正したくない場合は、その理由を書いて編集者の意見を仰ぐことになります。修正した点とその意図をコメントごとに返答として記載したレターと呼ばれる文書も作成します。
5. 再度投稿する。

(この間3〜6ヶ月)

6. 審査結果を受け取る。そのままで掲載可となることもありますが、少し修正した上で掲載可となることもしばしばあります。また、修正した原稿では、コメントに答え切れていないと判断されれば掲載不可の結果になることもあります。掲載不可となった場合でも、他の学術雑誌に投稿することはできますし、大抵再投稿になります。

(この間約1ヶ月)

7. 出版に向けた原稿の確認と修正。ゲラ原稿と呼ばれる原稿が届くので、スペルミスや引用文献の抜けなどを確認します。

(この間約1ヶ月)

8. 掲載号が決定される。紙に印刷される雑誌よりも早いタイミングで電子的な出版物として世に出ることもよくあります。

論文の審査はコミュニケーション

上記を見て分かるように、最初に論文を学術雑誌に応募してから約1年はかかるというのが典型的なパターンです。論文の審査というのは、合格不合格が決定される単純なものではありません。編集者や審査員とのやりとりの中で研究そのものや論文がブラッシュアップされていくプロセスが含まれています。特に、著者が適切であると考えていた研究方法や分析方法について、審査員が第三者的観点からそれを検証する点が重要です。著者は自分たちのやり方を取れば、研究の結論にとって良い結果が得られると感じています。第三者的な立場から見て、それが妥当な判断であるとお墨付きをもらうことで著者は安心しますし、論文の読者も安心します。

審査員のコメントに全て従うわけではない

審査員のコメントによって研究の品質が向上すると書きましたが、審査員もまた人なので、100%そうなるわけではありません。なので、どうしても著者が自分の主張が正しい場合には、審査員コメントに反論することも可能です。その場合は担当編集の人がどちらの言い分をとるかを判断することが多いです。経験的には、審査員の方のコメントが著者の主張と大きくずれている場合、論文の表現が審査員にとって誤解を生むものであったということも多いです。なので、反論する際には、いつも以上に慎重に元の論文と審査員コメントを読み込む必要があります。

査読された論文に研究者がこだわる理由

以上見てきたように、論文の査読プロセスは、研究の品質向上にとって重要なプロセスとなり得ると思います。また、読者も一定の品質が著者以外の研究者によって担保された研究であると納得してその内容を読むことができるわけです。

*1:「出版される」「パブリケーション」と呼ばれたりします。

*2:もちろんこれがとても大変だし、後のプロセスを意識して書くべきですね。