jnobuyukiのブログ

研究していて困ったことやその解決に関するメモ。同じように困ったあなたのために。twitter ID: @j_nobuyuki

論文を書く予定がある人は,まずはできるだけ論文を読みましょう

今回は,最近考えていることを共有したいと思って書きます。タイトルが言いたいことそのままなのですが。

論文には構造がある

論文には,構造があります。研究領域や学術雑誌によって,その構造自体は異なることもあります。最も典型的な形式としてIMRAD (Introduction, Method, Result, and Discussion)があります。私が専門としている心理学の学術雑誌では,ほとんどこの順序で出てきます。しかし,例えば神経科学分野では,結果が最初に述べられることになっているものもあります。このような構造があることで,研究者(とそうでない人)は,論文を短い時間で読めます。

論文には数多くの専門用語がある

論文は,原則として「掲載スペースが狭いので奪い合う」ことになっています。よって,冗長な表現や長い表現が避けられる傾向にあり,それを補うための数多くの専門用語が出てきます。例えば心理学の領域で出てくる「態度」,「制約」のような表現は,一般的にも使用できるものですが,それが指す内容は一般的な意味からだいぶ離れています。*1

論文には特有の言い回しがある

論文には,専門用語以外にも特有の言い回しがあります。例えば「傾向」。この言葉は,統計的仮説検定において,後少しで効果が有意になりそうなときに使います。心理学だったら,確率(p値)が5%以上10%未満で出てくる表現です。また,統計的仮説検定では,帰無仮説が棄却できないときに,「〜でないとは言えない」といったまわりくどい表現が使われます。この表現は「〜である」と言い切ることと明確に区別されます。

読みながら自然に学ぶ論文のルール

上記のように,論文には,特有の構造,用語,言い回しが多数使われています。これらをマニュアル的に理解するのは,論文を書く上で非常に重要です。それに加えて,たくさんの論文を読んで,その特有の言い回しを早く身につけることが大事だと思います。なぜ,身につけたほうが良いかというと,それはもちろんそれがその世界のルールだからです。しかし実際にはそれ以上の意味があると思います。こういった書き方に沿った文章を読むと読み手に安心感が生まれると思います。論文の構造や言い回しが適切に使われている論文と,そういった言い回しがあり得ない表現になっている論文を比べたら,どちらをより信頼するでしょうか?せっかく自分の論文を読んでくれた読者にはぜひ内容を信頼してもらいたい。論文特有の構造や言い回しを適切に表現することが,それに貢献すると思います。

*1:一般的に態度とは,内面の状態を指すものだと思いますが,心理学的態度は,表面に表れている行動を含んでいます。また,認知的制約という用語は,制限という意味ではなく,偏りのような意味です