jnobuyukiのブログ

研究していて困ったことやその解決に関するメモ。同じように困ったあなたのために。twitter ID: @j_nobuyuki

卒論でよく言われる「まだ検討されていない」研究テーマについて思うこと

大学の卒業論文の季節ですね。今回は、卒業論文でよく見られる表現について考えたことを書きます。

科学が目指すもの

科学が目指すものは「新たな知の獲得」です*1。今まで誰も知らなかったことを調べてみて、面白い結果が得られたらそれを皆で共有します。さて、「今まで誰も知らなかったこと」と聞いて、これだけ人類の歴史があって、科学者もたくさんいたんだからまだわかっていないことなんて、ほとんどないのではないかと思うかもしれません。しかし、実際には、問題すら把握されていないような現象がまだまだたくさんあります。また、ある研究結果と別の研究結果を結びつける橋渡しのような研究もどんどん行われなければなりません。意外にもわかっていることは少ないんです。そこで、大学の学部生の卒業論文であったとしても、「研究」として新規な発想・方法・考察で新たな知見が望まれます。

「まだやられていない」理由はいろいろある

上記のような背景があって、卒業論文の目的には「こういうことはわかっているが、〜の内容はまだ検討されていないので、これを検討する」としばしばかかれます。しかし、よく考えてみると、この「〜はまだ検討されていない」は、「なぜ検討されていない」を考える必要がありそうです。少なくとも「〜はまだ検討されていない」には3つの理由があると思います。

理論・仮説の成り行き上重要であるが、まだ行われていないため

これが本来の「まだ検討されていない」の理由となるべきものです。あるテーマにおける理論にとって、重要でありつつも未だ踏み込めていない問題を提起し、それを検討することで、学術的に貢献しようというわけです。

理論・仮説の成り行き上重要だが、検討が困難ではっきりした証拠を見出せないため

実証研究でよくある話だと思います。基本的に、学術論文ははっきりとした証拠が伴わなければ審査を通りません。すると、誰もが重要であると認めているが、精度の高い実験や調査が困難で決定的な証拠がないため、刊行された論文が存在しないことがあります。これは、表面的に見れば、その分野の研究がないと言えます*2。検討の難しさを何も知らない学生がデータベースを検索しても、何もひっかからない。そこで、理論・仮説的に大事だと思えば、そのようなテーマを選ぶ可能性はかなり高いでしょう。しかし、既に多くの研究者が証拠を見つけることに失敗している現象を、学部の卒論で扱うのは失敗リスクが高すぎます。序論のテンションの高い議論が、後半の考察で苦し紛れの反省文に変わってしまうといった卒業論文はぜひ避けてもらいたいです。

理論・仮説の成り行きから乖離しているため

これも学部学生が思いつきだけで行っている研究にありがちなパターンのように思います。確かに誰もやっていないのですが、それは「やっても大した意味がないから」であって、たとえ明瞭な証拠が伴った主張であっても「だから何?」と言われる可能性があります。

ではどうすればいい?

月並みな意見ですが、指導教授や類似のテーマを扱っている先生、大学院生に相談したほうがいいでしょう。かなり研究を進めて、データも散々取ってから相談しても、文字通り後の祭りなので、早めの相談をお勧めします*3

*1:社会の役に立つことという目的もあります

*2:出版バイアスとかポジティブバイアスと呼ばれています

*3:ただし他の人にアイデアを持って行かれないようにすることも重要です